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橘ケンチ氏講演レポート「たちばな書店 価値観を共有する場所」@築地本マルシェ

 

あくまでも自分用にとメモをとったんですが、すばらしい講演だったので整えてアップします。一般参加者は録音NGだったので精度ではプレスに劣るかもしれませんが、愛と熱意はどの記者にも負けません。ケンチさんの言い回しや表現はなるべくそのまま残しています。目玉焼きのくだりまでノーカットで載せる媒体は他にないはず…!

 

2018年2月17日 15:00〜16:00
築地本マルシェ 講演レポート
EXILE/EXILE THE SECOND 橘ケンチ

たちばな書店 価値観を共有する場所」

 

 

司会 今日はケンチさんと呼ばせていただいて進行をさせていただきますので…。
ケンチ はい、ぜひ。「橘さん」とはあまり呼ばれないので(笑)。

ケンチ 本日は皆さま、貴重な土曜日の昼間の時間を割いてお越しいただきありがとうございます。よろしくお願いします。

 

「本」をキーワードに、人と人が繋がれる場所をつくりたい

司会 昨年の6月、講演タイトルにもある「たちばな書店」というサイトを開設されたということですが、開設に至った経緯や狙いを教えてください。
ケンチ もともと本を読むことがすごく好きで、本にまつわる企画を…
(隣のブースから\キーン/とベルの音が聞こえる)
ケンチ あれ? キーンって、いま何か正解しました?(笑)
司会 隣でも講演が行われていまして(笑)。
ケンチ (パーテーションの向こう側にある隣のブースを覗いて)ほんとですね。こっちはこっちでやりましょう(笑)。本にまつわる企画を始めたいなとずっと考えていて、本屋もやりたいし本も作ってみたいと思っていたんですけど、他の人がもうすでにやっていることをやるのはいやだなと思って。人がやっていないことをやりたがる性格なんです。ちょうどその時、僕らのグループで全国ツアーを回らせていただいていまして、ツアーで各地に行く時にいろんな都市に…
(再び隣のブースから\キーンキーン/とベルの音が聞こえる)
ケンチ 2回正解しましたね。もう反応しないです(笑)。僕らはEXILEとして「日本を元気に」というテーマで活動していて、ライブに来てくださった方と同じ空間を共有して元気の受け渡しをしているんですが、応援してくださる方に直接会って思いを伝えて、新しい価値観を生み出して、元気になって帰ってもらうことが僕は一番嬉しいんです。ライブで各地に行かせていただきますが、行ける場所には限界があります。小さな町や村も日本中にたくさんありますし、そういうところにも僕らの思いが届けられないかなと思っていて。今はインターネットの時代なので、ネット上で「本」をキーワードにして、本が好きな人や僕らのことを応援してくれている人たちと繋がれる場所があるといいなと思いました。
 今はSNSが普及しています。僕たちからも情報を発信しますが、ここにいる一人ひとりが発信する側になって、広告塔になれる時代です。誰もが好きなことを発信できるようになると、僕らだけが影響を与える立場ではなくなる時代が来ると思います。何十億人という方、一人ひとりが影響力を持つんです。そういう方々と連携して、新しい価値観を作って、お互いが幸せになれたらいいなと思うのですが、それを繋ぐものが「本」というキーワードだといいなと思いました。ネット上の本屋で僕がおすすめの本を紹介して、見ている人も対等な立場で投稿ができるんですが、本にまつわる思いや感想を書いてもらうと、「こんな本もあるんだ」という発見がたくさんあるんですよね。僕は人に勧められて本を読むことが多いので、ネット上の仮想の空間に「たちばな書店」という場所を作って、いろいろな方がそこに集って、そこに来るといろいろな発見があって自分が成長できる、そういう場所にできたらいいなと思って始めました。

 

本のジャケットには作り手の思いが込められている

司会 探している本の情報は調べれば簡単に手に入りますが、たちばな書店では「どんな本があるのかな」というところから入れるのが新しいですよね。たちばな書店を作って、周囲からの反響はどうでしたか?
ケンチ いろいろな声をいただきます。「本を読むようになりました」とか、「こういう本を知って元気をもらいました」という声をいただくと、やってよかったなと思いますね。投稿してくださる方のおすすめで成り立っているサイトなので、今流行っている本が載ることもあれば、20年くらい前の本が載ることもある。一般的な書店とは本の流れが違うんですが、「人の思いにまつわる本屋」という意味では、いい形だなと思っています。
司会 ケンチさんは投稿された感想に全部コメントをされているので、見ている人と繋がっているなという感じがします。
ケンチ 本当にたくさんの投稿をいただいているので、載せられるのはごく一部なんです。これから載せるために控えているものもたくさんあります。投稿に一つずつ目を通していると、いろいろな方の考えを知ることができて、僕も毎回発見をもらっています。「これを載せよう」と決めると、その本について調べるじゃないですか。一冊丸々読むことはできないけど、あらすじやジャケットを見ると、その本についてなんとなくの知識ができます。それを続けていくうちに、ジャケットを見るだけで「この本はこういう本なのかな」とイメージできるようになってきました。それは面白い発見でしたね。
司会 投稿された本の中で、実際に読んでみた本もあるんですか?
ケンチ 読んでみた本も、すでに読んでいた本もあります。でも、知らない本もめちゃくちゃ多いですね。
司会 これまでに読んだ本で、感銘を受けたものはありますか?
ケンチ たちばな書店を始めて最初に投稿した本なんですが、松岡正剛さんの『多読術』です。あの本には感銘というか、衝撃を受けましたね。その時はちょうど「たくさん本を読みたい」と思っていた時期だったので、タイトルを見て「これを読んだらたくさん本が読めるのかな」という気持ちで手に取ったんですが、抱いていたイメージとはちょっと違って、本への向き合い方を書いている本でした。一時期、速読が流行ったじゃないですか。そういうことではなくて、多くの本をクオリティ高く読むにはどうしたらいいか、読んだ本をいかに自分の血と肉にしていくかが書かれていました。その本の中で松岡さんが、「本は読んで自分で編集するものだ」とおっしゃっていて。それまでの読書は物語を頭に入れておしまいだったんですが、その本を読んでからは、本を読みながら線を引くようになりました。それまでは「本に線を引く」って、やっちゃいけないことのように思っていたんですけど、「好きに読んで書けばいいんだよ」と書いてあって、なるほどなと思いました。自分の気になったフレーズに線を引くのはおすすめですね。
司会 線を引くと、より深く本に関われるような感じがしますよね。
ケンチ 「本を読んだらその内容を覚えていないといけない」と思っていた時期もあったんですけど、絶対忘れちゃうので。でも線を引いておくと、3年後くらいに急にポンと思い出したりするんですよね。それがすごく不思議で。音楽活動をしている時に、考え事をしていると急に本の内容が降ってくることもあります。それを知ってしまうとやめられなくなりますね。

司会 ケンチさんはたくさん本を読んでいらっしゃいますが、本はどうやって選んでいますか?
ケンチ 本を選ぶ時は大きく2通りあって、ジャケ買いか、人から勧められて買うかのどちらかです。本屋に入って30分くらいぶらぶら歩いていると、なんかね、気になる本ってあるんですよ。「意味分かんないけど、なんか気になるな」とか。それはジャケットかもしれないし、タイトルかもしれない。そういう時は手に取ってパラパラめくってみて、そのまま買って帰ることもありますね。
司会 さきほど、ジャケットを見るだけで「こういう本なのかな」と分かるようになったとおっしゃっていましたが、たちばな書店を始める前と後とでは本のジャケットを見る時の感じが変わりましたか?
ケンチ レコードやCDのジャケットと同じように、そのアーティストや作家を表すものなので、一番勝負に出るところですし、いろいろな思いが込められていると思います。そこが自分に響くかどうか、今の自分のニーズに合うかどうかは毎回気にしますね。

 

コメントを求められた時、「和訳きたー!」と思って(笑)

司会 人からの紹介で本を読むことも多いとおっしゃいましたが、お仕事繋がりの方やお友達からの紹介ですか?
ケンチ そういった方からの紹介もありますし、仕事柄、本をいただく機会も多いので、いただいたものを読むことも増えました。
司会 これまでに感銘を受けた本や、本にまつわるエピソードがありましたら教えてください。
ケンチ 最近僕がたちばな書店に投稿した本で、NIKEの創業者であるフィル・ナイトの自伝『SHOE DOG(シュードッグ)』は面白かったですね。2年くらい前に仕事でアメリカのニューヨークに行った時、帰りに空港の本屋に寄ったんですが、本屋に行くとまとめ買いしたくなる衝動に駆られるんですよ。しかも英語も勉強しているので、かっこつけて英語の本を買って帰ろうと思って。10冊くらい買って、全然読んでないんですけど(笑)。『SHOE DOG』のジャケットはNIKEのスウォッシュのロゴが載っていて、目を引くんですよね。本屋のイチオシとして置かれているのを見て、「NIKE関係の本なんだな」と思って買って帰りました。それから1年くらい経って、知り合いから「こういう本が出るので、コメントをいただけないですか」と言われたのがその本でした。「きたー! 和訳きたー!」と思って(笑)。和訳だったらすぐ読めるので、すぐ読みました。NIKEってすごい会社じゃないですか。かっこいいイメージだし、一流ブランドだと思っていたんですけど、フィル・ナイトは最初、日本の靴を輸入してアメリカで売っていたらしいんですよ。日本のアシックスが昔作っていたオニツカタイガーという靴を売っていたそうです。それを知って、NIKEは初めからあったわけではないんだなと思って。オニツカタイガーとの契約が続けられなくなってどうしようかという時に、「自分たちで靴を作ろう」と決めて、あるスポーツシューズを作った。それがNIKEの始まりだった。ちょっとシビれないですか?
司会 NIKEというと大きなブランドというイメージがありますが、そうではなかったんですね。しかも、日本も関わっていると思うと嬉しいですね。
ケンチ 嬉しいし、その内容を読むと「日本、ちょっと残念だな」とも思ったんですけど、そこはぜひ読んでいただきたいですね。どんなすごい歴史にも始まりはあって、始まりは一人の人間の情熱から生まれるものだと思います。この本にもそういう内容が書いてありました。歴史上の人間のサクセスストーリーを知ると、自分の力になりますよね。
司会 本を通じて知らなかったことを知れるのは楽しいですよね。ケンチさんは英語が堪能とのことですが、和訳されていない本も読むんですか?
ケンチ トライはします。すらすら読めたらいいなと思うんですけど、そこまですらすらは読めないですね。日々ちょっとずつ努力はしています。語学を勉強するのは好きなので、楽しみながらやっています。

 

本も好きだし、建築も好き。本屋にはその両方がある 

司会 先ほどニューヨークに行ったとおっしゃっていましたが、お仕事で行かれたんですか?
ケンチ 仕事で行きました。
司会 プライベートで一人で旅行をすることもあるんですか?
ケンチ しますね。一人でも、友達とでも。昔から一人旅は好きですね。
司会 海外に行った時、異国の本屋に立ち寄ることもあるんですか?
ケンチ 昔は行かなかったんですけど、たちばな書店の構想もあったので、最近は絶対に行くようにしています。海外の本屋はすごく気になりますね。
司会 日本国内でも、地方に行かれた時は本屋に行くこともあるんですか?
ケンチ 時間があれば必ず行くようにしています。最近、日本にも面白い本屋が多いんですよ。僕、本屋が好きなんです。本も好きですし、建築も好きなので、本屋って建築と本が一緒にあるから最高なんですよね。最近は本が売れないと言われていますが、そういう時代は面白いことをする人が多くて、全国に面白い本屋がたくさんできています。インディペンデントな形態で、店主の方の趣味が反映されているような小さな本屋は、最近増えているイメージがありますね。
司会 本が売れなくなってきたと言われていますが、本がなくなることはないですよね。
ケンチ なくなることはないと思いますね。電子書籍は僕も一時期使っていました。便利だし、小さい機械ひとつに100冊くらい入るし。でもやっぱり(紙の)本に戻りました。本って、ひとつの作品なんですよ。紙もこだわって選んでいるだろうし、ジャケットも作家の方と話し合って作られているだろうし。そういうことを思うと、やっぱり本がいいなと思いますね。
司会 ジャケットを見て本を選ぶ時には、自分の今の心が現れませんか?
ケンチ 現れます。よく眠れる方法が書いてある本を読むこともありますし。雑食なので、何でも読むんですよね。小説も読むし写真集も読むし、雑誌もエッセイも読む。その時に応じて、ジャンルすらも自分の直感に合わせて選んでいますね。
司会 たちばな書店で紹介されている本を見ても、いろいろなカテゴリの本がありますね。
ケンチ そうですね。ちゃんとされている本屋さんは、きっと本棚にも「この本の隣にはこの本を置こう」と文脈が考えられているんですよ。僕はそういうのを全く考えずに、自分が好きなものを並べているだけなんですが、それがかえって新鮮に映ることもあるみたいですね。
司会 本を選ぶ時、「同じ作家の本ばかり手に取ってしまう」、「ミステリーはちょっとな」というように、冒険ができない方もいるじゃないですか。でもたちばな書店でコメントを読むと、そういう方も一歩を軽く踏み出せるのかなと思います。
ケンチ そうですね。やっぱり、知らないことがあるのは幸せなことですからね。
司会 ケンチさんは普段、かなりお忙しいですよね。
ケンチ よく眠れる本を探すとは言いましたけど、僕はよく眠れています(笑)。そこは大丈夫です。寝ないとだめなタイプなんです。寝なくても頑張れますけど、いいパフォーマンスをしたり楽しく過ごしたりするには睡眠は大事なので、最近は意識してちゃんと寝るようにしています。
司会 忙しい中で、どうやって読書の時間をつくっているんですか?
ケンチ 意識してつくるのは寝る前くらいですね。それ以外は、空いた時間にその辺にある本を読んでいます。鞄の中にも常に何冊か持ち歩いています。1冊の本をずっと読み続けることができなくて、複数の本を平行して読んでいます。20冊くらい平行して読んでいますね。
司会 20冊も読んでいると、頭の中でごちゃごちゃになりませんか?
ケンチ 「1つの作品を、物語として読みたい」という欲があまりないんですよね。とにかく文字に触れていたくて。自分を整えるために、今日は小説っぽい感じがいいなとか、今日は自己啓発っぽい本、今日は字のない写真集、という感覚で毎日選んでいます。だからなかなか読み終わりません。途中のまま放置されている本がめちゃくちゃあると思います。でも、作者の方には申し訳ないですけど、それでもいい気がするんですよ。読む側の自由だし。読書を「難しそうだな、大変そうだな」と思うくらいなら、3ページだけ読んで置いておけばいいと思うし、また読みたくなれば読めばいいと思います。

 

たちばな書店」というくらいだから、1冊くらい本を出さなきゃ 

司会 たちばな書店は一般の書店とのコラボレーションも行っていますよね。具体的にどういう活動をされているのか教えてください。
ケンチ ちょうど昨年末に、池袋の三省堂書店さんとコラボレーションをして、2週間イベントをやらせていただきました。それからついこの前まで、八重洲ブックセンターさんともコラボレーションをしてイベントをやらせていただきました。たちばな書店を始めたからには、いつか実店舗化して皆さんの目に見える形にしたいと思っていたんですが、思いのほか早くそんな話が来まして、ありがたいなと思い受けさせていただきました。大変だったけど楽しかったですね。池袋の三省堂さんも八重洲ブックセンターさんも、書店内に展示スペースを持たれていて、そこにいろいろなイベントを誘致しているんですが、「そこでたちばな書店リアル店舗版をやりませんか」というお話でした。そこでやるからには実地に合ったものがいいなと思い、実際に足を運ばせていただいてイメージを膨らませました。アートが好きなので、展示みたいにしたいなと思ったんです。アートな雰囲気の中に本を点在させて、本にどっぷり浸れる空間をつくりました。空間をつくるのは初めての試みだったので、すごく楽しくて。いい経験になりました。
司会 建築がお好きということで、楽しみながらつくられたんですね。
ケンチ そうですね。いつもEXILE THE SECONDで美術をやってくれているスタッフが、映画『HiGH&LOW』などでも美術をやっているんですが、仲が良いので手伝ってもらいました。アートや造形物を作るというのは、今まで自分が踏み入れたことのない世界でした。「予算はこれくらいで」とかも話し合いましたし、現実と理想の間で苦しみましたけど(笑)。それもいい勉強、といったら当たり前ですけど、学びになりましたね。今SECONDでMVを撮る時なんかも、セットを見て「これはいくらするんだろう」とか「これはお金がかかるよな」と考えるようになりました(笑)。
司会 ケンチさんは『REMEMBER SCREEN』というアートフォトブックも出されていますよね。
ケンチ 『月刊EXILE』という雑誌で6年くらい連載をさせていただいていて。もともと映画が好きだったので、映画に関する企画を誌面上でやれないかなと思い、好きな映画のワンシーンを自分がモデルになって再現するという企画を始めました。スタイリストもカメラマンも編集も、いつも同じクルーでやっていたので、かなりやりやすくて。22作品くらい作ったところで、「そろそろオリジナルのストーリーを作ろうよ」という話になり、オリジナル作品を7個作りました。
 たちばな書店八重洲さんと三省堂さんでやることになった時に、何か目玉になるものがほしいなと思いました。「『たちばな書店』というくらいだから、1冊くらい本を出さなきゃだめだろう」と思って、その連載をまとめて本にしたんです。
司会 本当に幅広く活動されているんですね。
ケンチ 楽しいことをいろいろやっています。めっちゃ楽しいです。やっぱり楽しいことを追求するのが一番幸せだし、自分の力を一番発揮できると思うので。あと僕、何でも好きなので、何でも楽しめるっていうのはあるかもしれないです。
司会 苦手意識は持たずに何でも挑戦するんですね。
ケンチ 挑戦するのは大好きですね。

 

「本にまつわることなら何でもオッケー」な書店

司会 たちばな書店の今後の展望や、めざすものを教えてください。
ケンチ 時間はかかると思うんですけど、やりたいことはたくさんあります。今回、三省堂さんと八重洲さんに協力していただくことで「実店舗にたちばな書店を再現する」というのは形にできたので、それはよしとして。今回『REMEMBER SCREEN』を作らせていただいたことで、「本を作るって面白いな」と思ったんです。『REMEMBER SCREEN』とはまた違った形で、自分発信で本や作品を作ってみたいなと思います。たちばな書店は書店なんですけど、僕の中では実際の本屋とはイメージが違っていて、柔軟に何でもできるんです。「本にまつわることなら何でもオッケー」ということにしているので、本にまつわるカルチャーを紹介するようなこともしていきたいですね。例えば、本を読むのに最適な椅子を作ったら面白いなと思います。本を読むのに最適なテーブルとか、本を読むのに最適なメガネ、本を読むのに最適な照明、と考えていくと、だんだん空間になってくるんですよ。そういうのはいつか自分で手掛けてみたいですね。
司会 本にまつわることなら何でも、というと無限に広がりますね。
ケンチ 何でもありなので、何でもやっちゃおうかなと。たちばな書店を通していろいろな方とお会いできる機会も増えて、インスピレーションもいただけています。
司会 作家の方と会って、心に残っていることはありますか?
ケンチ 今でも仲良くさせていただいているんですが、僕が最初に知り合った作家でもあるショートショート作家の田丸雅智さんとの出会いは衝撃的でした。ショートショートって、「実際は短編でしょ」と思っている方が多いと思います。確かに短編なんですけど、田丸さんがおっしゃるには、ショートショートの定義は「短いけど不思議な物語」なんです。一瞬で没頭できて不思議な気持ちにさせられるような作品を作っている方で、ショートショートの書き方講座を全国で展開されていて、僕もトークショーで実際にやったことがあるんですけど、ショートショートを書くためのマニュアルを持っているんです。会場のお客さんからキーワードをもらって、マニュアルに沿って作ると、あっという間にお話ができちゃって。「物語って、こうすれば作れるんだ」と思いましたし、文章を書くことへの怖さを払拭してくれた方ですね。僕を題材にしたショートショートストーリーも書いてくれました。面白かったですよ。『ヘッド・リバー』というタイトルで。僕の青い髪にインスピレーションを受けたんでしょうね(笑)。発想が面白いじゃないですか。フィクションだから何でもありだし、発想次第でいくらでも感動させたり、刺激を与えたりする作品は作れるということを教わりました。

 

「醤油派です」と言われて距離が縮まることもある

司会 『SHOE DOG』のお話にもありましたが、本についてコメントを求められることもあるんですね。
ケンチ そういった機会も増えましたね。コメントを書いて出したらビル・ゲイツと並んで新聞に載ってびっくりしました(笑)。あと高校生の時にテニス部に入っていたので、テニスプレイヤーのアンドレ・アガシのコメントが出ているのを見て、「ここで共演できた!」と勝手に嬉しくなりました。僕は本の専門家ではないので、内容を分析してあらすじを紹介するほうには向かないと思うんですが、僕の価値観で、「僕はこう思いました」と書いています。
司会 そういうコメントの方が、身近に感じられそうですね。
ケンチ 「文章に親近感を感じます」とはよく言われます。堅くないからですかね。
 たちばな書店には「本を紹介して、作者の方や物語を伝える」というテーマもあるんですけど、もうひとつ大きなテーマとして、「紹介した人を伝えたい」というものもあります。僕が本を紹介したら、それを読んだ人に「橘ケンチはこういう人なんだな」ということが伝わりますし、そういうふうに人と人が出会える場所にしたいなと思っていて。「目玉焼きが好きです」と言われて、「醤油派ですか、ソース派ですか」「醤油派です」と言われたら、「分かる」ってなって距離が縮まったりするじゃないですか。好きな本を勧めてくれたら、その人は自分と近い感性を持っているのかなとか、逆に全然知らない本を勧められたら自分にないものを持っているのかなとか。ひとつの本を介して人を知れる、というのは大きなテーマにしたいと思っています。ちなみに、目玉焼きは何派ですか。
司会 それ知りたい人いますかね…。
ケンチ (客席に向かって)知りたいですよね!
司会 塩コショウ派です。
ケンチ 塩コショウ!?
司会 焼く時にふりかけて。
ケンチ それで食べる時には?
司会 そのまま。この話、そんなに深く掘り下げなくても…。
ケンチ でも今分かりましたよね、そういう人なんだなって。僕、ちなみに醤油派です。
司会 だと思ってました(笑)。
ケンチ (客席に向かって)目玉焼きは醤油派の人ー! 塩コショウ派の人ー! おお、結構いるじゃないですか。

 

「楽しそうな会社」と言われるけど、意外にしっかりしています(笑)

司会 皆さんのお席にチラシが置かれていたかと思いますが、『LDH our promise』という本が出るんですね。これはどういった内容なんでしょうか。
ケンチ これはもともと、僕らの決意表明というか、EXILE内でメンバーが共有しているものを『EXILE statement』という一冊の本にしたんですよ。そこから派生して、「LDHはこういう会社で、こういう理念のもとで活動しているんだよ」と伝えるために、スタッフ向けのものや若いアーティスト用のものも作っていました。それを社内だけで共有していたんですが、小学館さんのおかげで一般に出させていただくことになりました。それぞれの項目について、30人のアーティストに「この言葉はあなたにとってどういう意味ですか」とインタビューをしているので、所属アーティストの考えが分かりやすく書いてあるんじゃないかなと思います。
司会 LDHの方々って、「夢を掴んだ方たち」というイメージがあるので、理念には興味があります。
ケンチ エンターテイメントをつくる会社なので、楽しくやるのはもちろんですけど、楽しくやるというのは代償を伴うことなので、責任を持った上でやらなければいけません。はたから見ると「楽しそうな会社だよね」と言われるけど、意外にしっかりしていますよ、という本です(笑)。人に伝えることを仕事としてやらせていただいていますから。僕も読ませていただきましたけど、『LDH our promise』という軸のもとでいろいろな個性があるという見方ができる本だと思います。

 

質疑応答

 

質問 家に本棚はありますか? 本は何冊くらいありますか?
ケンチ 何冊あるんだろうなぁ。数えたことないけど、500冊くらいかな。そんなにないですよ。本棚も、どかーんとでかいのがあると思われているかもしれないですけど、そんなにないです。本棚は一か所なんですよ。
司会 絶対入りきってないですよね。
ケンチ それ以外に、部屋の片隅に積まれていたりします。
司会 それだけあると、同じ本を複数買ってしまうこともあるんじゃないですか?
ケンチ ありますよ。その時の気分で買っているので。

 

質問 『REMEMBER SCREEN』の次に出すとしたら、どんな本を出そうと思っていますか?
ケンチ 『REMEMBER SCREEN』を作ってみて、ZINみたいなタイプの小冊子の本は楽しく作れるなと思ったので、それを別バージョンで出してみたいなというのはありますね。

 

ケンチ (挙手している人たちを見て)こんなに質問してくれる方がいるなら、たちばな書店内にも質問コーナーを作ったらいいですね。

 

質問 本を読む時にこだわっている空間やものはありますか?
ケンチ ソファでは読まないようにしています。寝ちゃうから。ソファで寝ないですか?
司会 寝ますね。
ケンチ ちゃんと読みたい時は、普通の椅子に座って読みます。
司会 コーヒーを淹れたりしますか?
ケンチ 家ではあんまり、自分では淹れないです。外では、中目黒にいる時とかは、メンバーのTETSUYAってやつがコーヒー屋をやっているので、そこで買ったりしますけど。
司会 家ではノードリンクで。
ケンチ あとは日本酒とか(笑)。

 

質問 4月から社会人になるので、新生活に向けておすすめの一冊を教えてください。
ケンチ 僕、社会人ってそんなに経験してないんですよ。ちゃんと就職しているわけではないので。でも僕が二十歳から20代半ばくらいの時は、パナソニックの創業者である松下幸之助さんの本をすごく読みました。いろいろな本があるんですけど、「仕事の大事なことはもちろん、人として大事なことをきちんとやれば、それが仕事に活きる」というイメージで僕は受け取っています。その本から受けた影響は大きいと思うし、今の仕事のやり方にも活きていると思います。若いうちからそういう本に触れておくと、立派な大人になれると思うのでおすすめです。内容も読みやすいですよ。

 

質問 幼稚園の先生をしています。子どもたちに読んでもらいたい絵本はありますか?
ケンチ たちばな書店にも絵本の投稿は多いんですよ。僕が昔読んでいて今もまだある絵本だと、『ぐりとぐら』がありますし。あとは投稿していただいた本で、『アンジュール―ある犬の物語』という本があります。犬の話なんですけど、すごくぐっとくるんですよ。デッサンみたいなタッチで犬を描いている本で、文字がないのに犬の気持ちがすごく伝わってくる本です。それは読んでみてほしいなと思いますね。子どもだと、動物には興味を示してくれやすいと思うので。
司会 ケンチさんは、絵本の読み聞かせはされないんですか?
ケンチ したいなと思っています。たちばな書店の中にそういうコーナーを作って、耳で楽しめるようにするのもいいなと。通勤通学中に5分、10分でも聞いていただけるようなものが作れたらいいなと思っています。

 

司会 最後に、お越しいただいた皆さんに向けて一言お願いします。
ケンチ 今日はありがとうございました。今の時代はSNSが流行っていますし、もちろん僕らも使っていますけど、本ってすごく大事なメディアですし、僕にとっては自分と向き合うためのツールでもあります。本を読むことの大切さを感じたり、「本は自分にとってこういうものだな」と追求したりすると新しい発見がたくさんあると思うので、ぜひ本を読んでみていただけると嬉しいです。これからも本にまつわるカルチャーを発信していきたいと思うので、今後もたちばな書店に注目していただければと思います。